「あの人しかできない」を無くす。板金加工の技能伝承を「標準化」するための3ステップ

「複雑な曲げはAさんでないとできない」 「溶接の仕上がりが、担当者によってバラバラだ」

職人技に支えられてきた板金工場において、技術が「人」に付いてしまう「属人化」は、避けて通れないリスクです。しかし、技術を個人の持ち物から「会社の資産」へと変えることができれば、工場は劇的に強く、そして改善しやすくなります。

今回は、現場の混乱を防ぎながら、技術を会社の資産に変える「標準化」の3ステップと、その真の目的について解説します。

ステップ1:作業の「暗黙知」を言語化する

職人は「手が覚えている」ため、無意識に多くの判断を行っています。まずは、その無意識の判断(暗黙知)を言葉にする作業から始めます。

  • 見える化のポイント: 単に「曲げる」ではなく、「この材質なら金型はこれを選び、圧力はこの数値にする」といった判断基準を書き出します。
  • チェック: 「しっかり固定する」といった曖昧な表現ではなく、「トルクレンチで◯◯N・mで締める」など、誰でも同じ行動が取れる言葉に置き換えます。

ステップ2:動画と写真で「コツ」を視覚化する

言葉だけでは伝えきれないのが板金加工の難しさです。ここで最新のデジタルツールをフル活用します。

  • 動画マニュアルの活用: 熟練者の手さばきや、音の変化などを動画で記録します。
  • NG例の共有: 「こうなったら失敗(不良)」という事例を写真で並べることで、経験の浅い若手でも異常に気づけるようになります。

ステップ3:標準を「改善」のスタートラインに据える

標準化は、一度決めて終わりではありません。標準が決まることで、初めて「もっと良いやり方」を探す準備が整います。

  • 改善のループ: 若手から「この手順の方がやりやすい」という提案があれば、標準を更新(アップデート)します。
  • 評価との連動: 「標準通りにできるようになったか」を評価の基準にし、全員が同じ土俵で成長を競えるようにします。

まとめ:なぜ「標準化」が必要なのか? ―― 標準が無ければ「改善」はできない

今回ご紹介した3ステップを経て「標準」を作る。その最大の目的は、実は技術を伝えることだけではありません。

私自身の経験から確信しているのは、「標準が無ければ、本当の意味での改善はできない」ということです。

作業者それぞれがバラバラなやり方をしていては、どこに問題があるのかも見えず、何を改善すべきかも分かりません。たとえ一部で改善を行っても、元の作業がバラバラなら、その効果は現場全体には広がらないのです。

今回解説したステップで「全員が同じやり方(標準)」という土台を作る。そうして初めて、どこを直せばより良くなるのかが明確になり、改善の効果が工場全体に波及するようになります。標準化とは、技術を固める作業ではなく、組織が進化し続けるための「スタートライン」を引く作業なのです。