「名選手、必ずしも名監督にあらず」板金現場の“指導役”に必要な3つのスキル

「うちのベテランは技術はすごいが、教え方が怖くて若手が震え上がっている」 「『見て覚えろ』以外に、どう教えていいか分からないと言われる」

板金加工の現場でよくある光景です。しかし、これからの時代、技術を伝承し組織を強くするためには、指導者にも「教えるための技術」が求められます。

実は私自身も、過去に苦い経験があります。自分が当たり前にできることは、相手も簡単にできるはずだと思い込み、基本を飛ばして自分のレベルで教え始めてしまったことがありました。その結果、相手を混乱させ、教育がスムーズに進まない時期があったのです。

今回は、指導者が陥りがちな罠を乗り越え、自律した職人を育てるために必要な「3つのスキル」を解説します。

1. 「自分レベル」を捨てて、言葉の定義から伝えるスキル

指導役がやりがちな最大のミスは、自分と同じレベルの知識がある前提で話してしまうことです。

  • 日本人同士でも通じないという現実: 我々は同じ日本人同士、日本語で会話をしていますが、実は「言葉の定義」がズレていて全く通じていないという現象がよく起こります。「直角」「平行」「面一」といった言葉一つとっても、どの程度の精度を指しているのか、定義を揃えなければ教育は成立しません。
  • 必要なスキル: 専門用語や基本動作の定義を明確にし、相手の理解度に合わせて「言葉を選んで」伝える力です。

「基本中の基本」こそ丁寧に。自分レベルで教え始めるのではなく、相手と同じ土俵に立って言葉を揃えることが、指導者の第一歩です。

2. 「なぜ?」を理論として言語化するスキル

ベテラン職人の多くは、感覚(カンやコツ)で仕事をしています。しかし、初心者に「いい感じで曲げろ」と言っても伝わりません。

  • 必要なスキル: 感覚を理論(数値や根拠)に変換して伝える力。
  • 指導のコツ: 「この材質はスプリングバックが強いから、角度を0.5度深く押し込む必要がある」といった具体的な根拠を説明することで、若手は納得し、再現性が生まれます。

感覚を言語化することは、指導者自身の技術への理解を深めることにも繋がります。

3. 「失敗」を学びの機会に変える伴走スキル

早く一人前にしたいあまり、ついつい答えを先に教えてしまったり、少しのミスで手を出してしまったりしていませんか?

  • 必要なスキル: 失敗を許容し、自ら考えさせる「コーチング」の力。
  • 指導のコツ: すぐに正解を教えるのではなく、「今の失敗は何が原因だと思う?」と問いかけ、部下が自分で気づくのを待ちます。

自分の頭で考え、試行錯誤して得た成功体験こそが、若手の自信と応用力に繋がります。指導者は「教える人」であると同時に、小さな成長を認める「伴走者」であるべきです。

まとめ:指導者の成長が、工場の成長を加速させる

現場の指導役が「教える技術」を身につければ、技術伝承のスピードは劇的に上がります。

  • 言葉の定義を揃え、自分レベルで教えない
  • 感覚を「理論」に変えて伝える
  • 答えを教えず「考える機会」と「承認」を与える

「技術は教えられても、教え方がわからない」というのは、多くの現場が抱える課題です。ここに向き合うことが、最強の現場組織を作る最短ルートになります。