板金加工のコストダウンを考える際、多くの現場では「加工時間の短縮」に目を向けます。しかし、実はその前段階、つまり設計者が「どの素材を選ぶか」という決断を下した瞬間に、原価の大部分は確定してしまいます。
今回は、主要な3素材(アルミ・ステンレス・鉄)の特性を再確認し、機能とコストを両立させる選定のポイントを深掘りします。
1. 「鉄(SPCC/SECC)」:圧倒的なコストパフォーマンスと注意点
最も汎用性が高く、安価な素材ですが、その分「後工程」の設計が鍵を握ります。
- 塗装・メッキを含めたトータルコスト: 鉄そのものは安いですが、防錆のための表面処理が必須です。塗装面積や色の指定によっては、ステンレスを使うよりも高くなってしまうケースもあります。
- 溶接性の良さを活かす: 複雑な構造体を安価に作るには、やはり鉄が有利です。ただし、熱歪みを考慮した逃がしの設計が、結果として手直し工数を減らす(コストを下げる)ことに繋がります。
2. 「ステンレス(SUS304/430)」:高付加価値と「難削性」のバランス
美しさと耐食性が魅力ですが、加工負荷が高い素材です。
- 「削り」を減らす設計: ステンレスは硬く、レーザー切断や曲げ加工においても機械や金型への負荷が大きくなります。過剰な板厚を避ける、または強度が許せばSUS304からSUS430(磁性あり)へ変更することで、材料コストを10〜20%抑えられる可能性があります。
- 意匠性を活かした「後処理ゼロ」: ヘアライン材などを使い、無塗装で仕上げることでトータルコストを抑える。これは「展示場のように美しい工場」で作られる製品にふさわしい、スマートな選定です。
3. 「アルミ(A5052等)」:軽量化と「熱伝導」の戦略的活用
軽さと放熱性が武器ですが、溶接や曲げには独特のノウハウが必要です。
- 軽量化による付加価値: 輸送コストや現場での組み立て負荷を軽減できるため、製品のライフサイクル全体でのコストダウンに寄与します。
- 曲げR(半径)の適正化: アルミはステンレス等に比べて割れやすいため、設計時に適正なRを指定することが、不良率を下げ、スムーズな生産に直結します。
まとめ:素材選定は「顧客へのラブレター」
最適な素材を選ぶことは、その製品を最も安く、最も高品質に届けたいという顧客への想いの表れです。 「今の自分にできる一歩」として、素材の特性を深く理解し、加工現場と対話しながら選定を行う。その積み重ねが、図面1枚1枚の価値を高め、ひいては会社全体の競争力を創り上げます。










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