【導入:ビフォー】「便利」なはずの金型ラックが、実は「淀み」を生んでいた
多くの板金工場では、ベンダーの左右に立派な金型ラックが設置されています。一見、整理整頓されているように見えますが、実はここに「隠れた無駄」が潜んでいます。 製品が多品種少量になればなるほど、金型交換の回数は増えます。機械が大きければ、作業者は金型を一つ取りに行くだけで数歩、往復で十数歩を歩くことになります。1日100回交換すれば、それだけで数千歩。これは「作業」ではなく、付加価値を生まない「移動」という名の淀みです。
【事件のきっかけ】作業者の「手抜き」に隠された真実
ある日、私は一人の作業者の手元に目が留まりました。彼はベンダーの下部テーブルに自作の小さな受けを作り、そこに金型を2つ置いたまま作業をしていたのです。 理由を尋ねると、彼は少し決まり悪そうに言いました。 「いちいちラックまで片づけに行くのが、面倒だったんです」 一般的には「ルールを守れ」と指導する場面かもしれません。しかし、私はここに生産性向上の答えがあると感じました。
【アクション】「板金屋」らしい発想で、収納を機械の一部に変える
彼の「面倒くさい」は、無駄な移動を排除したいという本能的な欲求でした。そこで私は、以下の改善を提案しました。
- 「一律管理」からの脱却: 重い金型や使用頻度の低いものはラックへ。しかし、頻繁に使う小さな金型は「手元」へ。
- 自社設計の収納ボックス: 板金加工の技術を活かし、ベンダーの下部テーブルにぴったり収まる専用の収納ボックスを設計・製作。
- デッドスペースの有効活用: 作業者の足元、本来何もなかった場所に「一等地の保管庫」を作ったのです。
【アフター】機械の正面から動かない。それが生んだ「機能美」
結果は劇的でした。 作業者は機械の正面に立ったまま、最小限の動きで金型を交換できるようになりました。移動歩数は激減し、作業者からは「体が本当に楽になった」と感謝の声が上がりました。 その様子を見ていた経営者の方は、こう仰いました。 「無駄な動きが一切ない。これは一つの『機能美』だね」と。 生産性を上げるとは、高価な自動化設備を入れることだけではありません。現場に潜む「面倒くさい」という声を拾い上げ、知恵と技術で解決すること。それが、稼げる工場への確実な一歩なのです











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