多能工化の壁をどう突破するか?現場の「心理的抵抗」を「意欲」に変える処方箋

「忙しい工程を全員でカバーしたいが、職人が自分の持ち場から動こうとしない」 多品種少量生産の板金工場において、特定の工程に仕事が集中し、他が暇を持て余す「アンバランス」は致命的です。この解決策が「多能工化」ですが、導入しようとすると現場から猛反発を受けることが少なくありません。

今回は、技術的な指導以前に立ちはだかる「心理的な壁」の壊し方について深掘りします。

1. なぜ職人は「多能工化」を嫌うのか?

抵抗の正体を正しく知ることが、対策の第一歩です。職人が拒む理由は、単なる怠慢ではなく、以下の不安に根ざしていることが多いのです。

  • アイデンティティの喪失: 「自分は溶接のプロだ」という誇りが、他工程をやることで「何でも屋」に成り下がるような恐怖を感じる。
  • 失敗への恐怖: 慣れない機械でミスをして、周囲に無能だと思われるのが怖い。
  • 評価への不満: 「覚えることが増えるのに、給料が変わらないのは損だ」という合理的な不信感。

2. 「会社のため」ではなく「自分のため」と説く

経営者が「生産性のために多能工になれ」と言っても、現場には響きません。本人のメリットとして翻訳する必要があります。

  • 「市場価値」の向上: 「複数の工程をこなせる技能者は、一生仕事に困らない市場価値の高い人材だ」と伝え、キャリア形成のメリットを強調する。
  • 「相互扶助」の仕組み: 「誰かが休んでもラインが止まらない。それは、自分が休みたい時に気兼ねなく休める環境を作ることだ」と、働きやすさに結びつける。
  • 教育を「仕事」として認める: 慣れない作業でスピードが落ちることを、一時的な「投資」として全社で認め、心理的なハードルを下げます。

3. 「しつけ」と「評価制度」の連動

5Sの「しつけ(決められたことを守る習慣)」を、新しいスキルの習得という行動にまで広げます。そして、それを正当に評価する仕組みが必要です。

  • スキルマップの公開: 誰がどの工程をどこまでできるかを「見える化」し、習得レベルに応じた手当や評価を明確にします。
  • 教える側の評価: 自分の技術を後輩や他工程の人間に教えることを「最高の技能」として高く評価する文化を作ります。これにより、技術の抱え込みを防ぎます。

まとめ:多能工化は「信頼」の証

多能工化とは、単なる人員配置の効率化ではありません。社員に「あなたには別の才能もある、もっと成長してほしい」という期待を伝えるメッセージです。 「今の仕事+α」の一歩が、本人の誇りと工場の強さを創る。経営者がその「器」を示し続けることで、現場の壁は少しずつ、しかし確実に溶けていきます。